2026年5月、ラオス日本センター(LJI)が実施する若手経営者育成プログラム「経営塾」の第9期生が、日本企業の経営を現場で学ぶ訪日研修に参加しました。
今回の研修には、医薬品、輸入卸、製造、脱炭素、ICTなど、さまざまな分野のラオス企業22社が参加しました。一行は、日本の製造業・サービス業の企業6社や関係機関を訪問し、経営者や従業員との対話を通して、日本企業の経営理念、人材育成、顧客との関係、地域社会への貢献などについて学びました。
経営塾で学んだ経営の考え方が、実際の企業でどのように実践されているのかを自分の目で確かめるとともに、日本とラオスの企業関係者が直接交流し、将来的な協力やビジネスの可能性を探る機会となりました。


訪日研修を締めくくる日本企業との交流会
2026年5月26日には、訪日研修の最終プログラムとして、東京都内で「ラオス企業経営者・幹部との企業連携のためのビジネス交流会」が開催されました。交流会には、ラオスでの事業展開やラオス企業との連携に関心を持つ日本企業26社が参加しました。
イベントは、講演とビジネス交流会の2部構成で行われました。第1部では、ラオス経済の最新動向や投資環境、ラオスへ進出した日系企業の経験などが紹介されました。第2部では、事前のマッチングに基づく個別面談に加え、各経営塾生が設けたブースでの自由面談が行われ、日本企業と経営塾生の間で活発な意見交換が行われました。


この交流会は、経営塾生が日本企業との直接対話を通して、日本のビジネスの進め方や商習慣について学ぶとともに、新たなネットワークを築き、将来的なパートナーシップやビジネスの可能性を探る機会となりました。
この訪日研修は、約6か月間にわたって実施される「経営塾」の学びを締めくくる研修です。では、参加者は日本を訪れるまでに、経営塾でどのようなことを学んできたのでしょうか。
なお、今回の訪日研修の後、8月7日には、ラオスにおいて経営塾生主催による経験共有会「Learning into Action」が開催され、LJIもその取り組みを支援しました。


日本での実践につながる「経営塾」の学び
ラオス日本センターが実施する「経営塾」は、ラオス企業の経営者や幹部候補を対象とした、約6か月間にわたる実践的な経営研修プログラムです。
受講生は毎月5日間、日本人専門家をはじめ、豊富なビジネス経験を持つ講師陣による講義を受けます。経営戦略、マーケティング、財務管理、人材マネジメントなど、企業経営に必要な幅広い分野について学びながら、自社が抱える課題を分析し、その解決に向けたビジネスプランを作成します。
さらに、毎月行われる専門家との1対1のコンサルティングでは、それぞれの企業の状況や課題に応じた助言を受けながら、講義で得た知識を自社の経営改善へとつなげていきます。経営に関する知識を学ぶだけでなく、実際に自社で実践することを重視している点が、経営塾の大きな特徴です。
経営塾の修了後も、受講生は経営塾同窓会ネットワーク「KJL」を通して、修了生同士やラオス国内外の企業との交流を続けていきます。経営塾は、個々の企業の経営力を高めるだけでなく、企業や経営者同士を結び付け、新たな協力関係を生み出す場としての役割も担っています。


第9期を終えた経営塾 関専門家からのコメント
経営塾の運営に携わるLJIの関 千種JICA専門家は、第9期を迎えるまでの歩みについて、次のように振り返ります。
「私が経営塾に携わり始めた第3期当時、修了生は約50人で、参加者が定員に満たないこともありました。それから、より多くのラオス企業に経営塾へ参加してもらうため、LJIの担当チームが一丸となり、毎年プログラムの改善や広報に取り組んできました。
その結果、参加者は年々増加し、ラオス国内における経営塾への評価も高まってきています。多くの企業が関心を持ってくれるようになったことをうれしく思いますし、それはLJI側にとっても、プログラムをさらに良くしていくための大きなモチベーションになっています。
経営塾が目指しているのは、成長するラオス企業を育てること、そして、単に短期間で利益を上げるだけではなく、社会から信頼され、長く事業を続けられる企業を育てることです。
一方で、ラオス企業にはそれぞれの成長のペースがあります。その状況に合わせてプログラムを調整し、学びを実際の経営改善へとつなげていくことは、決して簡単ではありません。
ラオスでは、企業の成長を支える法制度や中小企業支援の仕組みが、まだ十分に整っていない部分もあります。企業は成長すればそれで終わりというわけではなく、事業を進めるほど新たな課題が見えてきます。必要な制度や支援がさらに整えば、ラオス企業は、より短い期間で成長できる可能性を持っていると思います。
今回の訪日研修について、参加者からは『実際に見て、経営者と直接話すことで初めて分かることがあった。』という声が聞かれました。
企業がどのような課題に直面し、それをどのように乗り越えてきたのかについて、経営者同士で直接話を聞けることには大きな意味があります。講義で学んできた内容を、日本企業の現場で実際に見聞きすることで、知識としてではなく、実感を伴って理解することができます。日本側の経営者や関係者の熱意も、直接会うからこそ感じられるものです。
参加者は、経営者として果たすべき役割、社内教育の徹底、顧客の需要を捉える方法、地域社会への貢献、障害者を含む多様な人材の活用など、それぞれの課題意識を持って日本企業を訪問しました。
今回参加した23人の経営者が直面している課題は、一人ひとり異なります。自分自身の課題を日本企業の経営者へ直接投げかけ、その経験や考え方を聞くことで、帰国後の次の行動につなげることができます。そこに、訪日研修の大きな価値があると考えています。」


それでは、第9期生は、経営塾と訪日研修を通して何を学び、その経験を自社の経営にどのように生かそうとしているのでしょうか。参加者二人にお話を伺いました。
家族経営から、経営者が不在でも動く仕組みへ
はじめに、宝飾品事業を営む第9期生のPhonevilay Vong-lnhさんに、経営塾と訪日研修を通じて得た学びや、家族経営から組織的な経営への転換について語っていただきました。
経営塾で最も印象に残ったことは何ですか
私の事業は宝飾品に関するもので、これまで家族経営として事業を行ってきました。そのため、宝石店を経営するのであれば、収入を得るために自分たちが常に店にいなければならないと考えていました。
しかし、経営塾について知った際、従来の家族経営のやり方を変えるためには、自分が常に店にいなくても事業が動く仕組みをつくる必要があると考えるようになりました。そうすれば、例えば自分が旅行などで店を離れている間も、事業を運営し続けることができます。
また、ネットワーキングの場で多くの経営者から、経営塾の評判や日本からの充実した支援について聞きました。そして、家族経営を企業としての経営システムへ変えるためには、経営塾が自分にとって適切な場所だと感じ、参加を決めました。
その中で特に印象に残ったのは、マーケティングに対する考え方です。以前の私は、マーケティングとは宣伝活動を行い、人々に自分たちのことを知ってもらうことだと理解していました。しかし、経営塾では、自分が売りたい商品を一方的に販売するのではなく、顧客の立場に立ち、顧客が必要としているものを提供することが事業の成長につながると学びました。
また、人材管理についても多くのことを学びました。担当講師は、以前、高級ブランドのエルメスで人事を担当していました。その先生から、なぜ企業が従業員を教育するのか、また、高級品を扱う仕事を続けてもらうために、どのように従業員を育成し、定着させているのかを学びました。私の宝飾品事業にも深く関係する内容であり、特に印象に残っています。
訪日研修について、感想をお聞かせください
私は、この訪日研修が本当に大好きでした。JICAにも、JETROにも、そして私たちが訪問した企業にも感銘を受けました。訪問先で見聞きしたことは、すべて経営塾で学んできたこととつながっていました。
その中でも、特に感銘を受けたのはJICAです。JICAは、まるで親のような存在でした。私たちが日本を訪れたとき、JICAの皆さんは、まるで子どもを迎えるように両腕を広げて歓迎してくれました。
日本でどのように行動すればよいのか、何に注意すべきかなど、必要なことを一つひとつ丁寧に説明してくれました。私たちへの接し方や情報の伝え方も非常に整っており、とてもプロフェッショナルだと感じました。
企業訪問にも大変感銘を受けました。訪問した中には長い歴史を持つ企業もありましたが、昔からのやり方を守るだけでなく、現在の時代に合わせて事業を変化させていました。例えば、若い世代の従業員にどのように接し、働き続けてもらうために会社や仕事の在り方をどう変えているのかという点です。
そして、もう一つ強く印象に残ったのが、日本の経営哲学です。
日本企業は、自社の利益のためだけではなく、顧客のため、そして社会のために事業を行っています。自社が利益を得て、顧客が商品を得るという二者間の関係だけでなく、事業を通じて社会全体にどのように貢献するかまで考えています。自社、顧客、社会のすべてを大切にする姿勢に、非常に感銘を受けました。
経営塾で学んだことを、今後どのように自社の経営に生かしていきたいと考えていますか
私の事業は家族経営なので、現在は一人が多くの仕事を担当しています。例えば、私はマーケティング、人事、経営、仕入れなど、さまざまな役割を担っています。
しかし、経営塾では、すべてを一人で行うやり方では、事業を安定して運営し続けることは難しいと学びました。適切な人材を適切な仕事に配置し、経営者が不在でも事業が動く仕組みをつくりたいと考えています。
また、経営塾で学んだ、顧客が求めるものを考えるという視点は、現在のショールームの運営にもつながっています。
以前は市場に一般的な店舗を構えていましたが、現在は、事前予約制のプライベートなジュエリーショールームとして営業しています。
お客様から連絡をいただいたら予約を取り、その方のためにショールームを開けます。お客様には、自分がVIPになったような特別で上質な気持ちを感じてもらうことができます。この方法によって、商品を販売するだけでなく、お客様に新しい価値を提供しています。
このように私は、昔ながらの家族経営を現代的な企業経営へと変えようとしています。できれば今年中にこの改革を完了させ、経営塾で学んだ戦略を十分に活用しながら事業を運営できるようになりたいです。
日本企業との交流から学んだ、地域社会との信頼と「カイゼン」
もう一人の第9期生Nalongded Luanglathさんには、日本企業との交流や企業訪問で印象に残ったこと、今後、自社へ取り入れたい考え方について伺いました。
訪日研修とビジネス交流会について、感想をお聞かせください
通常、日本企業の経営者の方々はとてもお忙しいと思います。しかし今回は、私たちの率直な質問に答えるために時間を割いてくださいました。このような機会はとても貴重であり、今回のプログラムの中でも特に印象に残ったことの一つでした。
ビジネス交流会では、ラオス企業とのつながりに関心を持つ日本企業と出会うことができました。今後、パートナーシップを築いたり、お互いの商品やサービスを売買したりする可能性もあると感じました。
また、イベント自体も非常にプロフェッショナルかつ効率的に運営されていました。そのおかげで、限られた時間の中で、自社を効果的に紹介する方法も学ぶことができました。私にとって、とても視野が広がる貴重な経験でした。
訪問した日本企業の中で、最も印象に残ったことは何ですか
経営者と従業員とのつながり、そして企業と地域社会とのつながりが、とても印象的でした。
日本企業は利益を追求するだけでなく、会社が長く存続することも大切にしています。そのためには、従業員との良好な関係を築くことに加え、社会や地域に貢献し、信頼を得ることも重要だと考えているのだと思います。企業が地域社会から信頼を得ることは、事業を続けていくための、いわゆる「ソーシャル・ライセンス・トゥ・オペレート」につながります。
例えば、武蔵境自動車教習所は、地域社会との間に非常に良好な関係を築いていました。通常、花火大会のようなイベントを開催するために、地域住民の理解を得ることは簡単ではありません。しかし、武蔵境自動車教習所は地域との信頼関係が強かったため、地域の同意を得て、教習所で花火大会を開催することができました。
企業が地域社会と協力することで、地域全体にとって大きなイベントを実現できるのだと感じ、とても感銘を受けました。
経営塾で学んだことを、今後どのように自社の経営に生かしていきたいと考えていますか
私たちは、すでに「カイゼン」の考え方を取り入れようとしています。また、AIの時代を迎えた今、物事の見方も変わってきました。
AIを活用することで、従業員がより働きやすくなるようにするとともに、お客様への製品やサービスの提供方法も改善し、より効率的で生産性の高いものにしたいと考えています。
カイゼンとは、継続的な改善のことです。毎日少しずつ改善を積み重ねることで、業務や会社全体をより良くしていけると信じています。
この考え方こそが、今回の研修から持ち帰った最も大切な哲学です。今後は自社の状況に合わせながら、少しずつ取り入れ、実践していきたいと思います。
二人の言葉からは、関専門家が指摘したように、企業を実際に訪問し、経営者と直接対話することが、参加者それぞれの次の行動につながっていることが分かります。
経営者が不在でも事業が動く仕組みづくり、顧客の立場に立ったマーケティング、従業員を大切にする人材管理、地域社会との信頼関係、そして日々の小さな改善を積み重ねる「カイゼン」。日本で得た学びは、それぞれの企業の状況に合わせた新たな取り組みへとつながり始めています。
ビジネスを通じて日本とラオスをつなぐ
関専門家は、訪日研修とビジネス交流会には、参加者の学びに加えて、日本企業とラオス企業の将来的な連携を生み出すという役割もあると指摘します。
「現時点では、両国企業のビジネス連携における成功事例は、まだ決して多くありません。近年、ラオスのビジネス分野では、中国、韓国、ベトナムなど周辺国企業の存在感が高まる一方、日本企業の存在感は相対的に低下していると感じています。
だからこそ、まずはラオスの経営者に、日本企業の良さや、日本が培ってきた経営の知恵を知ってもらう機会が必要です。
日本には、企業経営や中小企業支援を通して蓄積してきた、多くの経験と知恵があります。経営塾と訪日研修は、それらをラオスの経営者に直接伝える機会であると同時に、日本企業がラオス企業と出会い、互いを知るための機会でもあります。
経営塾や訪日研修を通して日本企業から学んだ人々が、将来、日本企業のビジネスパートナーになる可能性があります。ビジネスを通した交流は、企業同士の関係にとどまらず、日本とラオスの関係を支える『ビジネスを通じた外交』にもつながります。」
第9期生による今回の訪日研修は、経営に関する知識を深めるだけでなく、参加者が自社の課題と向き合い、次の行動を考える機会となりました。また、日本企業とラオス企業が互いの考え方やビジネス環境を理解し、将来の連携に向けた関係を築く第一歩にもなりました。
ラオス日本センターは今後も、経営塾をはじめとする研修や企業交流を通して、ラオスで長く成長を続ける企業と経営者の育成を支援するとともに、日本とラオスのビジネス関係の発展に取り組んでまいります。
取材・文:ラオス日本センター(LJI)インターン生 金原美蕾(関西学院大学)

